本研究は、細胞表面のマイクロ環境を支配している細胞外マトリックス(ECM)に着目し、細胞表面に人工ECMとしてナノメートルレベルの様々なナノ薄膜を形成することで細胞界面の構造と細胞機能を制御し、再生医療分野への応用を目的とした生体組織に近い構造と機能を有するマテリアルー細胞ハイブリッド組織の構築を目的としている。本年度は、細胞表面への様々なナノ薄膜の形成と形態観察、またナノ薄膜と細胞の相互作用の解明を目標に設定した。 マウス線維芽細胞の表面へ、合成高分子や天然由来高分子、多糖類、タンパク質の様々なナノ薄膜を調製した結果、静電的相互作用を駆動力とする薄膜の場合は膜厚依存的な細胞毒性が観察されたが、フィプロネクチンの結合ドメインを介した相互作用の場合、100nm以上の膜厚においても細胞毒性は観察されなかった。また、後者の薄膜の場合、細胞表面でフィプロネクチンの重合に伴う線維化挙動が観察され、天然のECM様のナノファイバーの形成が細胞表面にて確認された。さらに、透過型電子顕微鏡観察の結果、ヒト平滑筋細胞とヒト血管内皮細胞を積層して作製した血管モデル構造内部において、細胞表面のナノファイバーが細胞内のアクチン線維と結合している様子が確認された。細胞内骨格と密接に連結する人工ナノファイバーの構築はこれまで例が無く、世界で初めての成果である。 以上より、本年度は極めて順調に計画を推進することができた。人工的に作製したナノファイバーを足場とた細胞のハイブリッド組織は、様々な医療分野への応用が期待される。
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