本研究の目的は、数十nm程度の高い空間分解能を看し、かつ数十nm程度の超薄膜での測定が可能なチップ増強ラマン散乱(Tip-Enhanced Raman Scattering: TERS)法を用いて、生分解性ポリエステル共重合体やポリマーブレンドの超薄膜の分子構造、分子間相互作用、およびモルフォロジーを同時に観測することである。TERS法を用いることにより、ソフトマテリアルの界面・表面で引き起こされる相分離のメカニズムを官能基レベルで明らかにし、ナノ構造と機能性発現との関連性に関する知見を得ることを目指す。 平成21年度は主に装置の構築とポリマー超薄膜を用いた静的測定を行った。今回構築したTERS装置システムの特徴の一つは、金あるいは銀でコーティングしたAFMチップの先端部に穴を設け、そこからレーザー光を照射することで従来法に比べてバックグラウンドを抑えられ高感度に測定が可能なことである。もう一つの特徴としては、この落射照射光路以外に、視野全体をレーザー光で照射する視野照射光路を設け、そこからもSERS画像を得ることができる点である。この装置を用いて、高分子超薄膜の高感度ラマン測定を行い、高分子の回転半径程度あるいはそれ以下の厚みを有する超薄膜高分子膜のスペクトル測定に成功した。アルミ基板の上にスピンコートして作製したポリマーフィルムの膜厚はそれぞれ20、50、100、150nmである。膜厚が20nmのPHB共重合体薄膜においてもラマンスペクトルが測定することができた。また、PHB共重合体の薄膜試料ではバルク試料と比べて700および1400cm^<-1>付近のラマンスペクトルに違いが見られたことから、表面と内部では異なる構造を有していることが考えられる。さらに、1720cm^<-1>付近のC=0伸縮振動バンドの形状や、820cm^<-1>付近に見られるα-ヘリックス構造に起因するバンド強度の違いなども確認できた。これらはバルクと薄膜での結晶構造の違いを反映していると考えられる。
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