本年度は、バイオリソグラフィー技術の開発に向けて、まず、バイオベースポリマーと分解酵素の選定を行った。ポリ乳酸薄膜を調製し、proteinase Kによる酵素分解試験を行った。ここで得られた酵素分解条件を用い、スポッターによる酵素分解加工を行った。その結果、ポリ乳酸の膜厚約70nmに相当する深さの、8×8のアレイ構造を形成することに成功した。したがって、酵素の塗布箇所を制御することにより、自在にアレイパターンを作製できると言え、バイオリソグラフィーへの足がかりを得ることができた。次いで、効率的バイオリソグラフィーを目指し、被加工基板上に規則的構造を付与することを試みた。具体的には、生分解性ブロックコポリマー:ポリ(L-乳酸-b-ε-カプロラクトン)を合成し、高分子表面にナノ規則パターンを形成した。各ブロック成分が、溶媒に対する溶解性が異なることを利用し、沸点の異なる溶媒を用いて高配向グラブァイト(HOPG)上にスピンキャストして成膜した。Proteinase Kによるポリ乳酸成分の酵素分解により、薄膜の表面構造だけでなく、内部構造を観察することができ、粒状からストライプ構造まで多様な表面形態を形成できることがわかった。更なるブロックコポリマーのパターン化を目指し、混合溶媒による表面構造制御を試みた。ジクロロメタン(低沸点溶媒:L)とトルエン(高沸点溶媒:H)を適当な比率で混合して、スピンキャスト膜をHOPG上に調製した。L:H=3:1あるいはL:H=1:3の場合、混合比率の多い側の溶媒で形成した薄膜と類似した表面形態が観察された。しかし、L:H=1:1とした混合溶媒から成膜して表面形態を観察すると、粒状形態の中身が縞状となり、両溶媒から生成した試料の中間的形態をとることを見いだした。
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