本年度は、生分解性高分子のパターニングを試みた。ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)をトルエンに溶解して、高配向グラファイト(HOPG)上にスピンキャストを行った。表面構造は原子間力顕微鏡(AFM)で観察した。溶融結晶化した薄膜内には、お互いに60度の角度で並んだ縞模様が形成されていた。縞構造は200nm~1μm続いており、PCL結晶の成長方向はHOPG格子の3回対称を反映していた。また、縞構造の高さプロファイルから、凹凸構造を有していることがわかった。凸部分は約20nm間隔で配列しており、結晶化温度の低下と共に間隔が減少することがわかった。したがって、これらの結晶はポリマー鎖がHOPG表面に対して平行に配列したedge-onラメラであると考えられた。 作製したナノパターンに対して、リパーゼで酵素分解試験を行った。酵素は結晶領域よりは、非晶領域を優先的に分解するため、凹凸形状の異なるパターンを形成することができた。すなわち、バイオリソグラフィーで非晶領域を選択的に酵素分解することで、結晶領域のみを残存させたパターン構造を形成することができたといえる。次いで、このパターンをテンプレートとして有用物質を配列させることを試行した。化学修飾した金ナノ微粒子をスピンキャストしたところ、驚くことに、酵素分解で分解された凹部に集合するのではなく、凸部分の結晶表面上に金ナノ微粒子が配列することを発見した。したがって、生分解性高分子のパターン化、それに続くバイオリソグラフィーで形成した薄膜表面に、金ナノ微粒子を選択的に配列することができることが示された。
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