蛋白質やその複合体は力学的刺激に対して構造を保持、または構造を変化(アンフォールディング過程を含む)させるが、これは細胞にとって外的刺激を信号として伝達する非常に重要な機能である。近年の研究により、タンパク質の力学的安定性はトポロジーだけでなく、側鎖のパッキング、特に疎水性コアの形成に関係していることが指摘されてきている。本研究では小さく丈夫な構造を持ったprotein LのB1ドメインに着目し、このタンパク質の疎水性コア形成部分に対し、コアを不安定化させるさまざまな1残基変異体を作成し、1分子伸長実験を行った。野生型、変異体protein Lそれぞれをtitinとのタンデム型ポリマーとして発現し、AFMによってポリマー1分子を引っ張り、得られるのこぎり刃状のフォースカーブ曲線から、タンパク質のアンフォールディングに必要な力を測定した。さらに引っ張る速度と力の関係性を調べ、これをヘテロタンパク質ポリマーを想定したモンテカルロシミュレーションの結果と照らし合わせ、タンパク質のダイナミクスに対するアミノ酸残基の変異の影響をしらべた。その結果、2つの安定ドメイン間の境界部に位置する60番目の残基の変異体(I60V)が著しく不安定性化されていることが分かった。さらにこの部位に対して、逆に疎水性残基間のコンタクトを増やすようにした変異体について力学的安定性を調べると、疎水性残基間だけでなく、2つの安定ドメイン間のコンタクト数を増加させる変異(I60F)に対し、著しい安定性の上昇が見られた。これらの結果から、タンパク質の力学的安定性の決定には、トポロジー、疎水性コア、安定ドメイン間相互作用が複合して働いてることが分かった。これらを考慮することが、タンパク質の安定性改善に向けた理論的なアプローチにつながると期待される。
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