すでに確立した1分子蛋白質構造変化測定法(DXT法)の原理に遡って、実験法の改善を行った。目的は従来の毎秒30フレームという記録速度を上げることである。本法に不可欠な高輝度放射光施設での実験を国内のSPring-8のみならず、フランス(ESRF:ヨーロッパ放射光施設、グルノーブル)とスイス(SLS:スイス光源施設、ヴィリゲン)に展開した。高速度カメラなどの高精度装置をこれらの施設に持ち込み、各施設に約1週間滞在して実験を行った。各施設とも白色X線源を備えており、さらに、X線の特性を多様にコントロールすることができた。その結果、背景ノイズが減少し、信号雑音比を予想以上に改善することができた。このことで記録速度を毎秒5000フレームにまで上げることに成功した。現在、継続して実験を行い、データを取得中である。一方、脂質平面膜法により、KcsAカリウムチャネルの単一チャネル電流を記録した。平面膜チェンバーなどを改良し、ノイズの改善を図った。pH依存性ゲーティング機構を明らかにするための高精度の実験系を確立することができた。さらに、脂質平面膜にたった一分子のチャネル分子を再構成するのは実験レベルで決して容易ではないが、この困難な実験を行うことによって重要なゲーティングに関する情報を得ることができた。特にpH依存性ゲーティングに関して、2009年に解明されたKcsAチャネルの全長構造を参考にしつつ、その分子機構を検討しつつある。これら構造と機能の1分子測定をもとにチャネルのゆらぎ機構を詳細に解析したい。
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