核酸医薬として有望視されているカチオン性脂質と核酸からなる複合体(Lipoplex)は揺らいだ動的分子集合体であり、細胞内でのその動的挙動が機能に関与していると考えられるが、その詳細は全く不明である。本研究では、高い遺伝子送達能をもつポリアミン脂質を合成し、Lipoplexの揺らぎをともなう構造変化を蛍光顕微鏡および原子間力顕微鏡(AFM)により詳細に観察することにより、揺らぎ(構造変化)と生体機能(遺伝子送達)との相関を明らかにする。平成21年度の研究成果として、高い遺伝子送達能を有する新規ポリアミンの合成に成功し、その類縁体の合成も行った。ポリアミン部位のわずかな化学構造の違いが遺伝子送達活性に影響を及ぼすことが示唆された。高い活性をもつLipoplexの構造をAFMで観測した結果、ポリアミン脂質からなる二分子膜構造の間にDNAが挿入された層状構造であることが明らかとなった。細胞内取り込み後のエンドソーム環境をモデル化した系において、LipoplexからのDNAの放出が見られ、このプロセスが核酸輸送に重要であることが示唆され、分子集合体としてのポリアミン脂質・核酸複合体の揺らぎが起因する現象であると現時点で推察している。また、類縁体からなるポリアミン脂質とsiRNAとの複合体を形成させることにより、細胞内への導入およびRNA干渉作用によるノックダウン効果も認められた。導入高い活性をもつLipoplexほど速やかに構造変化を起こすことがAFMから明らかとなった。
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