先の特定領域研究「水と生体分子」の成果を踏まえ、「揺らぎ理論」と「水和理論」の整備を行い、当初の目的を達成した。「揺らぎ理論」に関しては、配座異性体を持つ分子からなる液体に対して、分子内・分子間構造を計算する新しい積分方程式理論を完成した。この理論では孤立分子に対する分子内相関関数をモンテカルロ法などで得たのち、分子間の多体相互作用に由来する部分のみに対する方程式を解く。二原子分子から直鎖デカンにいたる分子性液体に実際に適用し、散乱実験等より得られた結果とも良好な一致を示すことが分った。これらの結果は既にとりまとめて学術論文として発表済みである。 一方、「水和理論」に関しては、以前に我々が開発した高効率並列化計算が可能なMC-MOZ法を用い、バクテリオロドプシンの内部水の分布やCoil-Ser表面の水和構造について計算を行った。さらに得られた三次元空間内における水の分布関数を整理・理解するために、(1)分布関数の極小面近くで区切って直方体を定義し、内部に含まれる水分子の数を数値積分することによって配位数を求める方法、あるいは(2)分布関数を三次元ガウス型関数でフィットし、揺らぎの方向性や大きさを解析する方法を提案した。また酸素と水素の分布関数を併せて解析することにより、水素結合のネットワーク構浩がMC-MOZ法で正しく計算されている事を確認できた。これらの結果は、結晶構造解析などの実験で得られている傾向とも良好な一致を示しており、学術論文として既に投稿している。
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