・ 試料調製と会合測定の条件検討 蛍光励起エネルギー移動(FRET)用ドナー/アクセプター色素ペアとして、Cy3/Cy5をそれぞれN末端に標識したモデル膜貫通ヘリックス(AALALAA)3の合成を行った。またヘリックスを組み込んだ大きな1枚膜ベシクル(LUV)をガラス基板上に固定するため、カバーガラス・スライドガラスの洗浄とコーティングを行った。洗浄は1M KOH中で20分以上超音波洗浄することにより行った。ここにシランカップリング試薬を反応させ、表面のアミノ化を行った。次に、PEG-SEとbiotin-PEG-SE80/1の重量比で混合して反応させ、PRGコーティング上にbiotinがまばらに結合した状態のコーティングを行った。脂質パルミトイルオレオイルフォスファチジルコリン(POPC)および1%biotin-PEからなるLUVにCy3-((AALALAA)3、Cy5-((AALALAA)3を組み込み、ストレプトアビジン存在化でLUVをガラス表面に固定し、全反射蛍光顕微鏡による観察を行った。Cy3、Cy5蛍光ともに秒~数10秒オーダーでブリーチングする事が確認できた。ヘリックス/脂質比=5/90000ではLUVあたり1-5個程度ヘリックスが実際に組み込まれていることがわかった。 ・ FRETによるヘリックス間相互作用の検出 強く会合することが予想されるPOPC/コレステロール=7/3の組成のLUV中で、Cy3/Cy5ラベルヘリックスを組み込み、Cy3/Cy5の蛍光強度変化を同時測定した。次に十分長い時間観測してブリーチングによりCy5、Cy3がそれぞれ1つづつ組み込まれていたLUVを同定した。蛍光強度変化の解析を行った所、Cy3からCy5へのFRETに由来すると考えられるCy3蛍光強度の減少に伴うCy5の蛍光強度増大が観測された。この変化は膜貫通ヘリックスの会合-解離を反映したものであると考えられる。会合は長い場合には秒オーダーで持続することが明らかになった。この結果は膜タンパク質フォールディングの重要な過程である貫通ヘリックスの会合-解離の揺らぎをリアルタイム測定した最初の例であり、膜でのタンパク質間相互作用揺らぎを計測する重要なツールになると考えられる。
|