チャネルタンパクは生体膜を貫通するタンパクで、その中心にイオンを透過させる細孔を持つ。特定の刺激に応じて、細孔を開閉させることにより膜の透過性を制御している。単一チャネル電流計測技術と蛍光標識による1分子イメージング法を組み合わせれば、分子内運動による機能変化を従来法に較べてより直接的に示すことが出来るものと期待されている。この方法を用いて、チャネルタンパクの構造ゆらぎと機能の関係を見出すことが目的である。 細菌のKチャネル(KcsA)のCys置換変異体を数種類作成し蛍光標識を行った。巨視的な蛍光計測の結果、これらのうち幾つかは、チャネルの開確率が低い(pH7)条件と高い(pH4)条件下で蛍光強度に著しい差を生じさせることが分かった。この結果からゲーティングに伴いタンパクの構造が大きく変わることを見いだした。ところが、タンパク1分子で同じ計測を行うと単一チャネル電流に見られる速い揺らぎは見えず、ゆっくりとした揺らぎが観測された。即ち、構造揺らぎと機能揺らぎが同期していない。これは、構造と機能が1対1に対応しない(機能に対応しない構造が存在する)可能性を示している。揺らぐ「状態」が機能に対応しているのかも知れない。 上記の構造変化を確認するために、チャネルタンパクの1分子操作を行った。人工膜に組み込んだチャネルタンパクの細胞内領域を膜方向に操作することにより、活性が著しく上昇することを確認した。中性溶液中ではKcsAチャネルは殆ど活性を示さないが、ガラス微小探針等で操作することにより、酸性(pH4)条件下に匹敵する程の活性を持たせることが出来た。これは、上記蛍光計測の結果を確認するとともに新たな計測手法としても注目される。
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