本研究の目的は、"細胞膜の揺らぎ"がヒトの正常造血及び造血器腫瘍へ及ぼす影響を解明し、その成果を造血障害や造血器腫瘍の治療に応用することである。特に、造血幹細胞と造血器腫瘍に焦点を絞り、"細胞膜の揺らぎ"が、これらの幹細胞や腫瘍細胞の機能に及ぼす影響をin vitro及びヒト化マウスとヒト造血器腫瘍モデルマウスを用いたin vivoの系を用いて解析する。そして、正常細胞には毒性がなく、癌細胞の細胞膜を標的とした新たな「膜標的療法」の確立を目指す。 平成21年度は、Hybrid Liposome(HL)のPrimary effusion lymphoma (PEL)への効果を、in vitro培養系とPEL発症マウスモデルを用いたin vivoの系により解析した。その結果、HLが末梢血リンパ球に比較してPEL細胞に特異的に取り込まれ、早期に細胞膜の流動性を上げてcaspaseを活性化すること、HLがPEL細胞にアポトーシスを誘導すること、PELマウスモデルにおいて、副作用がなくPELの増殖を抑制する事を見いだし、論文として発表した。PELは薬剤耐性で有効な治療法がないため、新たな治療法としてのHLの可能性が示唆された。 また、Cepharanthineに膜の安定化作用があることを見いだした。今後更に詳しい解析を行い、造血器腫瘍治療薬としての可能性を追求する予定である。
|