タンパク質によるDNA塩基配列の読みとりは、遺伝子発現の出発点となる重要な段階であるが、そのメカニズムは解明されていない。これまでの研究から、蛋白質は、DNA上を滑走したり(スライディング)、とび跳ねたり(ホッピング)、他のサイトへ大きく跳び移る(ジャンピング)などの遷移を繰り返して、ターゲットとする塩基配列にたどり着くと考えられている。さらに、これらの遷移を併用することで効率的に配列をサーチしていると考えられている。しかし、蛋白質がDNAからどの程度離れるのかといった空間スケールの問題や、各遷移がどの程度の頻度で起こっているのかといった時間スケールの問題についてはわかっていないことが多く、最近、ようやく一分子測定による実験データがでてきたばかりである。そのため、本研究課題では、分子動力学シミュレーションにより、蛋白質がDNA周囲を移動するメカニズムの解明を目標に研究を進めてきた。 平成22年度は、分子動力学アルゴリズムを検討し、プログラムを設計した。これまでに提案されている4つの自由エネルギー計算法、Adaptive Biasing Force(ABF)法、アンブレラサンプリング、熱力学積分法、Jarzynski非平衡計算をとりあげ、それらの原理と長所短所を検討した。ABF法は(1)反応座標のほかに、事前にパラメータを必要としない、(2)CPUごとに独立に計算した後、計算結果を足し合わせて処理することができるため、並列計算に適している、という長所があり、これらの点を考慮して、ABF法により、DNAに対するタンパク質の移動に伴う自由エネルギー変化を計算するプログラムを設計した。
|