研究概要 |
蛋白質の機能発現機構を解明するためには、「揺らぎ」という観点からの理解が本質的であり、その鍵となるのが「天然変性蛋白質」である。本研究では、様々な天然変性蛋白質が標的分子を認識するメカニズムについて解析を行い、次の成果を得た。 1.天然変性蛋白質MLLは、転写コアクチベータCBPのKIXドメインと結合して構造形成する。KIX上のMLL結合部位にアラニン・スキャン変異を導入した結果、KIXのLeu628は、MLLとの相互作用において特に重要な残基であることが明らかになった。詳細なNMR解析の結果、この残基は、ループ構造の揺らぎを制御し、MLLとの結合を安定化する役割を持つことが示唆された。(Arai et al.(2010) FEBS Lett.584,4500) 2.癌抑制因子p53は、その天然変性領域が多重リン酸化されることによって、CBP依存的に転写活性化を受けるが、そのメカニズムは未解明であった。我々は、p53の天然変性領域を1~3ヶ所リン酸化したペプチドを作成し、CBPとの相互作用を網羅的に調べた。その結果、リン酸化の数を増やすに従って結合は段階的・加算的に強まることを見出した。おそらく、p53の多重リン酸化は、段階的転写調節を行い、ストレス増強に従って転写を活性化すると考えられる。(Lee et al.(2010) PNAS 107,19290) 3.HIV-1由来のTatは天然変性蛋白質であり、1本鎖の核酸と相互作用して構造形成する。その標的分子認識機構を解明することを目指して、Tat蛋白質の発現系を構築した。
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