研究概要 |
本研究は,縮環π電子系の集合体形成ならびにそれによる特異な光・電子機能を実現する高次π空間の構築を目的としたものである.前年度までの研究で,ベンゾジフラン誘導体が単分子で予想されるよりはるかに低いLUMO準位をしめすなど,特異な物性を発現することを見出している.動的光散乱測定等の結果より,100nm程度の分子集積体の構築を示唆する結果を得ている.以上に基づき,当該年度の研究では,2,6-ジ(2-ピリジル)ベンゾ[1,2-b:4,5-b']ジフラン(以下,PyBDFと略す)構造と物性に関する種々の検討を行った.以下に結果を示す. 昇華によって得たPyBDFの淡緑色結晶と,テトラクロロエタンからの再結晶によって得た黄色結晶について,光物性測定を行った.後者は長波長領域での幅広な吸収・発光を示した,これは,基底状態・励起状態での分子間相互作用の存在を示唆するものと考え,これらの結晶構造の相違の有無について検証すべく,単結晶構造解析を行ったが,いずれの結晶も格子定数,パッキングなども含めて全く同一の構造を与えた.さらに,この黄色結晶がメカノクロミズムを示すことを発見した.すなわち,この黄色結晶を粉砕し,スペクトルを測定したところ,昇華によって得た結晶と同一の吸収および発光スペクトルを与えることを見出した.このような光物性の起源は,有機エレクトロニクスデバイスの高効率化に資する原理の開発へとつながる可能性が示唆されており,今後継続して検証する必要がある.
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