研究概要 |
物質の3次元的な構造とダイナミクス(動き)を明らかにするための手法の開発と,その構造が成り立つ理論の構築(結合様式)に関する過去の卓越した研究成果が現代科学を支えている。物質の3次元的な構造と動きを把握する意義は,構造がその物質の「働き・機能」と密接に関わっているからである。将来の科学技術を支える新しい領域を新たに切り開くための戦略の一つは,これまで人類が気付いていない未開拓な分子構造を構築することである。本研究では,分子の構成原子の空間的配置を決定する結合様式に新しい概念「π結合のみによる原子と原子の結びつき」を導入し,その新概念を実証する新しい構造を有する物質群を合成し,それらの物質が持つ新規な機能に関する研究に邁進する。本年度は、π単結合のもとになる一重項ビラジカルの長寿命化に及ぼす効果について検討を行い、次の研究成果を得た。一重項ビラジカルの寿命はその分子内環化反応の速度で決まるので、環化反応を抑制する手法を見出すことが一重項ビラジカルの長寿命化に直結する。分子内環化生成物よりもエネルギー的に安定な一重項ビラジカルの分子設計が可能であれば、極めて長寿命な一重項ビラジカルの発生が実現できる。そこで、一重項ビラジカルの熱力学的な安定化と同時に対応する分子内環化生成物の不安定化を達成するために、1,3-ビラジカルのアルコキシ基の効果に着目し、その環化体とのエネルギー差を見積もるとともに、実験的に、鎖長の異なるアルコキシ基を有するビラジカルの発生を行い、その寿命とアルキル鎖の鎖長効果を調べた。その結果、アルキル基の鎖長が長くなるに従って、一重項ビラジカルの長寿命化が観測された。
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