π電子に囲まれた空間、いわゆる"π空間"をもつ構造は、フラーレン類に限らず、カーボンナノチューブやカーボンナノホーンなど、ナノテクノロジーへの応用が期待される炭素新物質のもつ特異な構造である。申請者は、これまでの研究背景をもとに、これまでにない非平面状の"π空間"をもつ化合物を構築し、曲面状の共役系間に働く相互作用の本質を明らかにし、さらに機能性超分子システムへ展開することを目的として研究を行っている。二重らせん状のπ空間をもつ化合物の合成研究の途上でπ拡張ペンタレン類やインデノンの新規合成法を見出した。この方法を用いて合成されたジナフトペンタレンは、アモルファス状態でP型半導体として非常に高い電荷輸送能(μ=1.87×10^<-3>cm^2/Vs)を示した。この化合物は、有機薄層太陽電池のP型半導体層としても働き、0.94%の変換効率を示した。今後、この化合物を基に、さらに高い半導体特性を持つ分子の構築を行い、薄膜太陽電池等への有用性を検討してゆく計画である。また、最近ボウル状の共役系をもつペンタ-iso-ベンゾコラヌレンの合成中間体として非平面状の化合物テトラベンゾフルオレンを合成したところ、そのジアルキル誘導体が極めて高い青色蛍光発光特性を示すことを見出した。そこで、これまでほとんど研究されていなかったテトラベンゾフルオレンの官能化やπ系拡張体の合成を行い、有機EL材料・半導体材料・火薬類に反応する蛍光センサーとしての有用性を明らかにする計画である。
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