「海底下の大河」プロジェクトで実施された沖縄トラフにおける2009年7月の鳩間海丘(NT09-11)および2009年10月の伊平屋北海丘(NT09-17)の研究航海で採集されたシンカイヒバリガイについて、脂質バイオマーカーの存在量とその炭素同位体比の分析を行った。試料を有機溶媒で超音波抽出後、アルカリケン化・シリカゲルカラムによって、炭化水素と脂肪酸画分に分画した。脂肪酸についてはメチルエステル化誘導体化を行った。得られた画分のそれぞれについて、ガスクロマトグラフ質量分析計にて化合物の同定を行い、ガスクロマトグラフ燃焼同位体比質量分析計にて炭素同位体比(δ^<13>C)を測定した。 その結果、両方の試料からメタン酸化細菌由来と考えられるホパノイドであるジプロプテンが検出された。また、最も多く存在する脂肪酸はどちらの試料でもC_<16>の一不飽和脂肪酸であり、脂肪酸のδ^<13>Cは-51~-44‰(鳴間海兵)と-56~-47‰(伊平屋北海丘)であった。これらの値は過去に研究されたそれぞれの熱水噴出孔からのメタンの炭素同位体比(鳩間海丘:-48‰、伊平屋北海丘:-54‰)とほぼ一致した。両シンカイヒバリガイともにメタン酸化バクテリアを一次生産者として共生させ、メタンを炭素源としていることがわかった。残念ながら、試料量の関係からジプロプテンの同位体比を測定することができなかった。 今後の課題として、脂質バイオマーカーの水素同位体比測定の他、堆積物やチムニー中に存在すると考えられるバクテリア・アーキアのバイオマーカーを検出することが挙げられる。それらの結果から海底下における微生物バイオマーカーの同位体的特徴を明らかにし、炭素源や水素源と微生物の代謝系を解明する。
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