研究概要 |
本研究は,深海底の熱水噴出域およびメタン湧水域に生息する軟体動物の貝殻に記録された元素組成の変化を指標にして,数年から十数年という時間スケールで,熱水およびメタン湧水活動の変遷と,それに伴った生物の成長様式の変化を見積もることを目的とした.そこで,軟体動物の現場飼育実験を通じて成長線形成周期を高精度に推定するとともに,時系列にそって貝殻の元素組成の変化を検出し,数ヶ月から十数年オーダーで熱水噴出域およびメタン湧水域の活動史の復元を試みた. 平成22年度に実施された海洋研究開発機構の研究調査船による4つの航海(S10-15「貝殻から熱水噴出活動を推定する」課題提案者:渡部裕美)を利用して,相模湾メタン湧水域および沖縄トラフ伊平屋凹地熱水噴出域のシマイシロウリガイ群集とヘイトウシンカイヒバリガイ群集を現場でカルセインおよび塩化ストロンチウム溶液で染色の上,5-7ヶ月間現場に設置したボックス内で飼育を行った後に,回収することができた.回収された標本は,いずれも生存しており,本研究の過程で確立したシマイシロウリガイの成長線観察法を利用して成長線形成周期の推定を行ったところ,3-10日程度であると予想された.一方,貝殻の最大成長軸に沿って,10マイクロメートル間隔で,水温の指標となるSr/Caと熱水に多く含まれるFe, Mnの濃集を測定した.Sr/CaおよびFeの含有量は周期的に変動している様子が観察できたが,Sr/CaとFeの変動の間に相関はなかった.貝殻に記録されている水温変動と金属元素の濃集を関連づけ,熱水活動史を復元するためには,より多くのデータの蓄積と解析を行うとともに,貝殻への金属元素濃集のメカニズムの解明が必要である.
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