本研究は大環状π共役系配位子錯体を構成成分とするπ-d系の開発を目的とする。21年度は、CoおよびFeを中心金属とする軸配位型の一次元導電体について、電流-電圧特性の測定から、電荷の不均化の度合に相関した非線形伝導の発現、特に磁気モーメントを導入した系では不均化の発達に伴い高温から負性抵抗が現れ、磁場によって非線形性が抑制されることを明らかにした。また、二次元導電体において、Fe系でもCo系と同様に圧力下で金属的な導電性を示すが、一次元系と異なり両系とも高温領域では同程度の伝導度となること、また、Fe系では低温で急激な抵抗上昇を起こすことを明らかにし、この状態で外部磁場を作用させることで-99.8%の巨大な負の磁気抵抗が発現すること見いだした。 フタロシアニン系の新規π-d導電体として、Ruを中心金属とする一次元導電体の作製に成功した。中心金属がCoやFeの導電体と同形であり、π-π相互作用も同程度である。磁気モーメントのあるFeで見られたπ-d相互作用による電荷の不均化の発達はRuの場合にも見られ、Feに比べ電荷の局在の程度が高いことが比抵抗の温度変化や電流-電圧特性の測定から明らかになった。また、エタノールが配位したアルカリ金属をカチオン成分とする新規一次元導電体も開発し、Co系で明確な金属的な挙動を観測した。π-π相互作用が他の物質と同程度であるにもかかわらず、電荷の不均化による熱活性的な伝導挙動が抑えられている原因として水素結合の存在に注目している。この特徴がπ-d相互作用へどのような影響を与えるかを調べるために、Fe系への拡張を現在進めている。 他の大環状π共役系配位子として、ポルフィリン系の合成にも着手し、配位子合成に成功した。今後は配位子のπ電子系の特徴を明らかにするとともに、金属錯体を用いた導電物質の開発に取り組む。
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