公募研究
分子性結晶内に、分子の揺らぎや回転の自由度を導入した物質は、結晶内の分子運動を利用した新たな物性開拓の場を提供する。我々は、(Anilinium)([18]crown-6)の様なダイナミックな超分子カチオン構造に着目して、導電性や磁性の発現が可能なジチオレート系金属錯体[Ni(dmit)_2]との複合システムに関する報告を行っている。超分子カチオン構造の分子設計は、分子ローター構造の回転対称性や回転障壁の設計を可能とする事から、分子ローター構造の設計の観点から、o-aminoanilinium(HOPD^+)と3-fluoroadamantylammonium(3FADNH_3^+)をクラウンエーテルと複合化し、[Ni(dmit)_2]塩への導入を試みた。3FADNH_3^+を含む結晶は、カチオン層とアニオン層がb-c軸方向に交互に配列し、[Ni(dmi)_2]^-アニオンはπ-ダイマーを形成していた。300Kの結晶構造解析では、3-位に導入したフッ素基の配向に二つの配向が観測され、この配向のディスオーダーが、動的であるかを判断するために、単結晶試料を用いた誘電率の異方性を測定した。その結果、結晶のa-軸方向の誘電率に300K以上で大きな温度-周波数依存性が出現し、特に1kHzの低周波測定において誘電率の増加が顕著に観測された。3-FADNH_3^+カチオンのC-NH_3^+基回りの回転ポテンシャルエネルギーを計算したところ、二極小型のエネルギー曲線が出現し、そのポテンシャルエネルギー障壁の大きさは、約80kJmol^<-1>程度であった。3FADNH_3^+カチオンの分子運動が誘電応答と相関していると考えられた。カチオン構造の分子設計により、様々なタイプの分子運動を結晶中で実現する事が可能であり、双極子モーメントの変化を可能とするユニットの導入は、誘電物性に大きな周波数・温度依存性を出現させる。
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