本研究では、まず、本研究研究課題を開始する以前の先行実験で得られた多くの知見(溶媒の封入法、溶媒の凝固圧、高圧セルの電極導入法など)を基に、次のステップである「高圧下電解合成法の確立」を目指した。現在、内径14mmφの大型高圧セルにおいて、新たに考案した電極導入法をテストしているが、この年度の技術研究において、この手法をほぼ確立した。 これらの技術研究と平行して、合成の効率化を目指す取り組みも行った。具体的には、主軸となる装置である大型圧力セルを新たに導入し、同時進行的に研究を進めるための準備を行った。 この研究の最初の候補物質は、(BEDT-TTF)_2I_3である。この系には、同じ組成で異なる分子配列を持つ4つの相が存在する。これらの中には、充填率などの違いにより、高圧下でより安定なものが存在するはずであり、印加圧力による相の作り分けができる可能性がある。成功すれば、圧力というパラメーターの結晶化における役割が浮き彫りになるであろう。もう一つの候補としては、トリハライドアニオンを持つBEDT-TTF塩におけるβ-相とβ'-相の問題である。この系では、アニオンのサイズを小さくしていくと、結晶系が、β-相からβ'-相へと変化するが知られているが、そこでは、結晶の充填率が大きく増大している。この構造変化に本研究手法を適用し、常圧ではβ-相しかできない組成に対して、圧力下合成によってβ'-相を作り出したい。 以上のような候補物質の合成の準備(原料の合成など)も、今年度に行い、首尾よく必要な原料の準備合成に成功している。
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