研究概要 |
課題の初年度である本年は強相関電子系の非平衡状態の理論の基礎的な問題についての研究を行った。 [1] 強相関電子系における負性微分抵抗の多体電子雪崩機構による説明(Oka-Aoki PRB2010,投稿準備中) 我々はこれまでミクロな立場から"キャリアの生成・消滅過程"という観点で非線形伝導を探求してきたが、ここでは、現象論的に捉えることにより、非線形伝導に対するシンプルで統一的な描像を与えることを試みた。 低電流領域での電流の立ち上がりは物質の特性(次元性、秩序)を強く反映している。一方、大電流領域における負性抵抗は、より普遍的な現象であり、電子間相互作用(Hubbard U)と直接関係した過程であると予想される。我々は、多体電子雪崩効果によって負性抵抗が説明できることを提案した。"雪崩効果"とは電場中で加速されたキャリアが他のキャリアを生み出し、加速度的にキャリア密度が増加する効果であり、相関系ではその多体版が大きな役割を果たすと考えられる。さらにマスター方程式と組み合わせることによってJE-特性が再現できることを示した。 [2] 低次元系の電気力線閉じ込め-ナノチューブの強束縛エキシトンと拡張Massive Schwingerモデル(投稿準備中) 現在、電気力線の閉じこめの物性への影響に注目が集まっている。これは電荷秩序転移近傍にある二次元層状分子性導体で電荷の間にV(r)=-U0log(r)なる長距離ポテンシャルが存在することが非線形伝導測定を通じて明らかにされたことに端を発する(T. Yamaguchi et al., PRL2006)。 我々はカーボンナノチューブ(CN)おいて電気力線の閉じ込めを仮定した場合の物性について考察した。大きな特徴はポテンシャルが一次元的(V(x)=e|r|/2)であるため電荷の閉じこめが起きることにある。そのため1電子連続準位は消失し、励起状態はエキシトンのみとなる。CNにおける電子はDirac型の分散を持ち、電場自由度と合わせて1+1次元電磁量子力学=massive Schwinger modelによって記述される我々は光円錐Tamm-Dancoff近似のもと、't Hooft-Bergknoff方程式を解きエキシトンスペクトルを計算した。また、弱結合極限(e<<m)においてエキシトンスペクトルの電場依存性を計算し、この系の非線形伝導についても調べた。その結果、二次元層状分子性導体と同様にべき的なJE-特性が実現することを見いだした。また、臨界電場Ecr=e/2において励起準位が無限縮退し、half-asymptotic state (Coleman 1976)が現れることが確認された。今後は二次元層状分子性導体の状況に近い2+1次元のモデルを用いて同様の解析を行っていきたい。
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