超伝導体κ-(DMEDO-TSeF)_2[Au(CN)_4](THF)には、同じ化学的組成とκ型のドナー分子配列を有するにも関わらず空間群とT_cが異なる2種類の物質が存在する。室温において、結晶溶媒として絶縁層に取り込まれているTHFはL相ではディスオーダーしているがH相ではオーダーしている。H相もL相も厚いアニオンシートを有することが特徴であり、強い2次元系の電子状態が期待される。H相の角度依存性磁気抵抗はインコヒーレント的なバックグラウンドを示すが、伝導シート平行近傍の磁場におけるピーク効果は明瞭に観測される。ピーク効果は磁場の増大につれて小さくなっていく。これはこの物質のピーク効果が花咲らによって提示されたものとは起源が異なることを示唆している。ピーク幅はB cosθ=Const.で振る舞う。これは弱いインコヒーレント系における弱局在の効果として、Kennetらの新理論で説明されると考えられる。 H相の量子振動が2種類の閉軌道を示すことは、結晶学的に異なる伝導層が異なるバンド充填率をもつことを示している。これは絶縁層に含まれる極性溶媒分子THFが1枚の絶縁層で強誘電的に配列しており、結晶全体では反強誘電的であることに起因する。このためアニオンの電荷にも偏りが生じ、結果としてドナーの電荷移動量がシートごとに異なるものと考えられる。アニオン上の電荷の偏りで分極が相殺しきれていない場合には、LittleやGinzburgの超伝導である可能性が出てくる。
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