構造相転移により低温でドメイン構造をもつ有機超伝導体κ_L-(DMEDO-TSeF)_2[Au(CN)_4](THF)のフェルミ面をシュブニコフ・ドハース振動により実験的に決定した。フェルミ面はバンド計算の予測とよく一致する、異方的な楕円シリンダーが重なり合って構成されている。構造相転移によりフェルミ面に小さなエネルギーギャップが開く事が予測されていたが、これは低磁場から磁気貫通軌道が観測されていることと一致する。ドメイン構造にも関わらず、量子振動が観測された事は、この物質が綺麗な2次元電子系であることを意味している。超伝導の臨界磁場は極めて異方的であり、異方性パラメータはBi系酸化物高温超伝導体に匹敵する150である。また、伝導シート間方向のコヒーレンス長は3.5Aと極めて短い。これはドナー分子のTSeFユニットの長さに相当する。ドメインサイズはこれより十分長い相関長であるため、ドメイン構造は超伝導には影響を及ぼしていないと考えられる。 1994年に米国で開発された有機超伝導体(BEDT-TTF)_2Ag(CF_3)_4(TCE)には2K級のκ型と構造が明らかにされていない10K級の物質が報告されていた。本研究で16年間未解決問題であった10K級物質の結晶構造解析に成功した。10K級物質は、κ型とδ型のドナー分子配列が交互に積層した新奇な結晶構造である。ドナー分子の結合距離から、δ型伝導シートでの電荷秩序状態が示唆されている。これは超伝導はκ型伝導シートだけが担っていると考えられる。したがって、極めて強い2次元超伝導特性が予測される。
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