NT_3(GaCl_4)は、チアジルラジカルらしい3次元的な分子ネットワークをもつ結晶構造中に電荷が異なる4分子が存在し、室温でも電荷秩序状態にある。この系は顕著な非線形伝導を室温でも示すが、高電場によってこの電荷秩序が部分的に融解して高伝導になったためと推察している。 最近、岸田(名大)らは、負性抵抗現象から電流発振を引き出すための電気回路を提案したが、NT_3(GaCl_4)もこれによって安定な発振を見せることが分かった。さらに試料に振動電流を印加しながらEPRを計測したところ、この影響を直接EPRシグナル上に観測することができた。このような計測は我々が知る限り初めての例で、本研究では有機伝導体中を電流がどのように流れるかといった極めて基本的な問題に対して、分子論的な知見を得られる。さらに本研究では、非磁性のGaCl_4をEPRアクティブなFeCl_4イオンに部分置換したNT_3(GaCl_4)_<1-x>(FeCL_4)_xを合成した。xの値は10%程度であった。この結晶に電流を印加したところ、EPRのレスポンスはNT_3(GaCl_4)のものとまったく異なり、電流による熱発生で単純に説明できることが分かった。これは対イオン上が電流パスとなっていないためであると解釈している。
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