強相関電子における常磁性金属から反強磁性絶縁体へと転移する新しい相転移における相転移機構が未だ不明のままである。これを解決するため比熱、帯磁率などの熱力学的測定を行い、根本原因となっている伝導電子と磁性スピンとの関係を議論する。この問題にはπ-d相互作用と低次元磁性が作る新しい相転移の本質が隠されているものと考え熱測定による各電子の自由度の変化をエントロピーから定量的に明らかにすることを目的として、比熱の温度依存性の詳細な測定を行った。21年度はπ電子状態と鉄の3dスピンの自由度が常磁性金属から反強磁性絶縁体へと転移を行う時点でどのように変化するのか検討した結果、次のことが明らかとなった。 1)転移ではπスピン系が作る有効磁場を鉄の3dスピンが感じてゼーマン分裂を増大することによるエントロピーの減少を観測する。2)低温部に見られる内部磁場を反映したSchottky比熱からその内部磁場の温度依存性がメスバウアー効果から測定された内部磁場の温度依存性と完全に一致する。3)転移においてはπ電子系のスピンの自由度の変化はほとんど観測されない。 4)Feを磁性のないGaで部分的に置き換えた試料ではFeスピン濃度の増大に伴って内部磁場が増大し、転移温度が上昇する。 これらは特異な常磁性金属-反強磁性絶縁体転移におけるπ電子-d電子の関係を定量的に評価するうえで、Feの3dスピンのよる自由度の温度変化を明らかにすることでπ電子系の常磁性金属から反強磁性絶縁体へと転移をV203系よりも定量的に議論できる系であることが明らかとなった。
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