λ型BETS_2FeCl_4は高磁場の印加による超伝導の発現を示す特異な物質である。我々は、Feの3dスピンが主導となって転移をしていることに疑問を感じ、比熱および帯磁率の測定とそれに基づくモデルづくりを行なった。極低温から15Kまでの比熱測定からは低温相で当然反強磁性の一端を担っていると考えられてきたFeのスピンが、転移のあとも80%以上エントロピーは消費されないまま残っていることを明らかにした。続いてFeがπスピンが形成する反強磁性秩序から交代磁場を受けるとして副格子モデルを用いて比熱と同じパラメータで理解可能か検討を行なった。その結果、弱磁場、またその方向性まで含めて極めて良い一致を見た。このことは3dスピンはπスピンが作る内部磁場を感じて温度変化する検出器の役割を果たしていることが明らかとなった。このプローブを利用してClをBrで置換することでπ-d相互作用の大きさを制御した系、およびFe濃度を希薄にしたFeGa混晶系を用いて内部磁場の観測を行なった。その結果Fe濃度に比例し内部磁場が増大すること、ClからBrの置換によるπ-d相互作用を強めると内部磁場が増大することを定量的に見積もり、同時に転移温度も同様に高温側に移動することを明らかにした。これは反強磁性絶縁体転移解明において重要な情報となる。
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