研究概要 |
近年,光をトリガーとして新規な機能性を発する光誘起機能性材料が注目されている,その試みの一つとして,1分子に光吸収部位と伝導部位を持つ単分子型光誘起伝導性物質が開発されている.現在の大きな課題は機能の効率を向上させることである.これを根本的に解決するためには,そのメカニズムを解明することは不可欠であり,本課題ではアドバンスドESRを用いて,スピンダイナミクスという観点からメカニズムの解明を試み,新規光誘起機能性物質開発へとつなげていくことを目的としている.機能部分のスピンダイナミクスは孤立スピン系のスピンダイナミクスに比べて十分に速い.このダイナミクスを捉えるために,時間分解ESRシステムの時間分解能を向上させる必要がある.検出系を改良することで,従来の60nsから4ns程度まで向上させることに成功した.上記の新システムを利用して,光誘起伝導性を持つ単分子性TTF誘導体のスピンダイナミクスを調べた.蛍光部としてPPD基が,伝導部のTTFとリンカーにより接合されたTTF誘導体の凍結溶液による時間分解ESR測定を行った.レーザー照射により,ESRシグナルが増大することを見出した.そしてそれらをシミュレーションすることで,得られたシグナルが励起三重項に由来すること,およそ3Å程度のスピン間距離に対応するゼロ磁場分裂を明らかにした.そして,量子化学計算により,得られた励起三重項状態のスピン密度は,蛍光部PPDと伝導部TTFとのリンカー部にほとんど存在することを明らかにした.
|