光誘起電子移動反応において電子供与体となる、非平面性ドデカフェニルポルフィリン(H_2DPP)及びその誘導体を配位子とするスズ(IV)錯体を合成した。酸化電位を低下させるため、メソ位フェニル基及びβ-位フェニル基のパラ位にメトキシ基を導入したH_2DPP誘導体、H_2TMPPh_8P及びH_2DMPPを合成した。合成したスズ(IV)-DPP錯体について、吸収、発光、及びNMRスペクトル測定等によるキャラクタリゼーションを行った。特に、H_2TMPPh_8Pを有する[Sn(TMPPh_8P)(OCH_3)_2]については、元素分析、電気化学測定、X線結晶構造解析によるキャラクタリゼーションも併せて行った。 ケギン型ヘテロポリ酸であるリンタングステン酸[PW_<12>O_<40>]^<3->と[Sn(TMPPh_8P)(OCH_3)_2]が、アセトニトリル中で1:1錯体を形成することを明らかにした。さらに、フェムト秒及びナノ秒過渡吸収スペクトル測定により、スズポルフィリンからヘテロポリ酸への光誘起電子移動反応の光ダイナミクスについて明らかにした。励起波長430nmにおけるフェムト秒過渡吸収スペクトル測定の結果、ポルフィリン錯体の励起一重項の減衰過程でへテロポリ酸への電子移動は観測されず、ポルフィリン錯体内での項間交差が進行する事が分かった。しかし、励起波長430nmにおけるナノ秒過渡吸収スペクトル測定の結果、ポルフィリン部位の三重項励起状態の減衰の速度定数が、添加するへテロポリ酸濃度増加に伴って飽和挙動を示した。このことからポルフィリン部位の三重項励起状態からの電子移動に先立って錯形成平衡が存在することが示唆された。すなわち、ポルフィリン部位からへテロポリ酸への分子内光誘起電子移動が進行している事が強く示唆された。この結果は、ポルフィリン錯体からヘテロポリ酸への分子内光誘起電子移動が速度論的に明確に示された初めての例である。
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