1.環状多核レニウム錯体の光増感機能 当研究室で独自に開発した、二座リン配位子(P-P)で架橋したリング状レニウム(I)四核錯体の特性に着目し、これをレドックス光増感剤として活用した系について検討した。CO_2還元能を有するfac-[Re^I(bpy)(CO)_3(MeCN)]^+を触媒として併用することで、現在報告されている可視光を利用できるレニウム(I)錯体触媒の中で、最も高いターンオーバー数・耐久性を示す光触媒系の構築に成功した。 2.環状レニウム多核錯体とポリ酸の複合系の構築 還元剤存在下、可視光を照射することにより一分子内に2電子を蓄積するリング状レニウム(I)四核錯体と、電気化学的に複数の電子蓄積可能な多価アニオンであるヘテロポリ酸[SiW_<12>O_<40>]^<4->をアセトニトリル中混合することで1:1複合体(Ring-POM)を定量的に得ることに成功した。DMSO溶液中にRing-POMを溶解させ、リング部を選択励起できる436nmの光で励起しても発光はわずかしか観測されなかった。リング4核錯体単独からの発光より、大きく発光強度が減少したことは、このRing-POMは溶液中でも安定で、リング部の励起状態から[SiW_<12>O_<40>]^<4->部への電子移動が進行したことを示している。還元剤であるトリエタノールアミン(TEOA)共存下、Ring-POMのDMSO溶液中にCO_2を共存させ436nmの光を照射すると、まず[SiW_<12>O_<40>]^<4->部の一電子還元種が定量的に生成した。さらに、光照射を続けると、[SiW_<12>O_<40>]^<4->部の二電子還元種と推定される新たな吸収帯が観測され、次にリング部が還元されることがわかった。リング部内に蓄積された電子数は平均で1.7電子であった。このようにRing-POMは、TEOA共存下光照射するとまず[SiW_<12>O_<40>]^<4->部に2電子が、続いてリング部にさらに2電子が蓄積される光化学的な多電子蓄積複合体であることが明らかになった。
|