本研究の目的である、自己組織化性を高度に取り入れた新規な溶液プロセスの探索を、分子論的シミュレーション手法を用いて行った。研究実施計画に沿って、まず、安息香酸誘導体の中から、それ自身液晶性を示す最も単純な誘導体である、末端鎖長4の4-プロポキシ-安息香酸についての分子モデリングとシミュレーションを行った。安息香酸誘導体は、カルボン酸部分の水素結合により二量体を形成することにより液晶相を発現しているといわれており、この水素結合の適切なモデリング手法を見出すことにより、二量体による液晶相を分子シミュレーションで再現できた。次に溶質であるペンタセンの分子モデリングを行い、その妥当性をX線回折実験で得られている結晶構造の安定性により検証した。これらの溶媒・溶質分子のモデルを用い、安息香酸誘導体液晶溶媒中のペンタセンの分子配向について、分子シミュレーションを用いて検討した。その結果、上記液晶溶媒中のペンタセン分子の長軸配向について、平均的に溶媒液晶のダイレクタ方向に配向していると言う結果を得た。この事は、ペンタセン分子が液晶溶媒中において、いわゆるゲスト・ホスト的に配向した溶液構造をとっていることを意味し、協力研究者(山本貴広)による実験において確認されているペンタセン混合による液晶温度範囲の拡大と矛盾せず、それをサポートする結果と考えられる。
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