研究概要 |
移動という逃避手段を持たない植物にとって,急激な環境の変化は大きなストレスであり,随時,適応していかなくてはならない。その中でも低温は,迅速に対応しなくてはならない主要な環境ストレスのひとつである。これには様々な遺伝子の発現調節が伴うが,これまでの研究のほとんどは転写制御に注目して行われてきた。一方,近年,"small RNA"の研究が急速に進展したことと相俟って,mRNAの分解による転写後制御の重要性が認識されている。そのような背景のもと、本研究は植物の示す低温ストレス応答機構においてmRNAの分解による制御がどの程度貢献しているのかを明らかにすることを目的としている。 平成21年度は、シロイヌナズナの培養細胞株であるT87を使ったマイクロアレイと転写阻害剤処理を組み合わせた"mRNA decay array"によって,低温ストレスに応答してmRNA安定性のレベルで制御されている遺伝子群を抽出した。興味深いことに、低温ストレスに応答にして転写およびmRNA分解が拮抗的に変化し、結果としてmRNAレベルが変化しないという遺伝子が多く存在することが明らかとなった。さらに、マイクロアレイのデータをもとに転写レベルで制御されている遺伝子群とmRNA安定性のレベルで制御されている遺伝子群を分類したところ、異なる機能グループに属する傾向が強いことが明らかとなった。この結果は、遺伝子産物の機能によってその制御方法を選択している可能性を示唆する。
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