研究概要 |
移動という逃避手段を持たない植物にとって、急激な環境の変化は大きなストレスであり、随時、適応していかなくてはならない。いろいろな環境変化の中でも低温は、迅速に対応しなくてはならない主要な環境ストレスのひとつである。低温ストレスに伴う応答には様々な遺伝子発現制御が関わっている。我々はその遺伝子発現制御にmRNA分解による制御がどのように関わるのかを明らかにすることを目指している。 マイクロアレイと転写阻害剤処理を組み合わせた解析である"mRNA-decay array"によって低温ストレスに応答してmRNA分解速度が大きく変化している遺伝子を探索した結果,多くの遺伝子群が低温ストレスに応答して,その分解の速度を変化させていることを見出した。分解速度を変化させた遺伝子群に関して,さらなる詳細な解析を進めたところ,特にストレス応答に関わる遺伝子群が不安定化される傾向があることを明らかにした。興味深いことに,これらの不安定化するストレス応答性遺伝子群の多くは,mRNAを不安定化すると同時にそのmRNAレベルを上昇させていた。mRNA分解速度の制御は,mRNA合成と分解のキネティクスを考えると,mRNAレベル自体の調節ばかりではなく,その変化時間の調節にも関わる重要なステップであるといえる。不安定化するストレス応答性の遺伝子群においては,おそらくmRNA分解を早くすることによってそのmRNAの上昇変化を迅速に行おうとする仕組みが働いていると考えられる。これらの遺伝子群には低温ストレス応答の主要な転写制御に関わっているDREB1A/CBF3およびその下流の因子も含まれており,転写とmRNA分解の協調した制御を示唆する重要な知見が得られた。さらに,不安定化する遺伝子群にはPentatricopeptide-repeatおよびF-boxタンパク質が数多く含まれることを明らかにした。
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