細胞を構成する様々な生体高分子を正確に合成することは生命の維持に必須であり、実際、こうした生体高分子の「品質管理システム」の存在が近年明らかとなってきた。mRNAについては、成熟化過程で生じうる異常mRNAを排除するために、未成熟終止コドンを持っmRNAを排除するNMD (non-sense mediated decay)や、リボゾームがmRNA上で停滞した際にこれを排除するNGD (no-go decay)などの品質管理機構が存在する。他方、一部のタンパク質の合成の際に翻訳が一時的に停止することで、発現制御、局在化等を達成する例が知られている。 HAC1^u mRNAは通常翻訳停止状態でポリソーム上にあり、小胞体ストレス依存の非典型的スプライシングで、翻訳停止が解除される。これは、見かけ上、上記NGDの基質となりうる。実際にHAC1^u mBNAがNGDの基質となっているかを、NGD関連因子であるDom34や、細胞質のmRNA分解に関わるSki2、Xrn1を欠失した酵母株を用いて検討した。その結果、これら因子の欠失でも非ストレス条件下でのHAC1^u mRNAの量は影響を受けず、翻訳停止状態にあるHAC1^u mRNAは何らかの方法でNGDを回避していることが示唆された。さらに、翻訳抑制がかからない変異hac1^u mRNAからの翻訳産物は、成熟型であるHAC1^i mRNA由来の翻訳産物量と同程度であり、HAC1^u mRNAが長い3'UTRを持つにも関わらず、NMDをも回避していることが示唆された。あわせて、こうした変異型hac1 mRNAの解析を通じて、非典型的スプライシングに関わるRNA ligase、Rlglpが、スプライシングに加えて、HACI15'-UTRを介して翻訳制御に関わることも明らかにした。
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