本研究課題では、出芽酵母において観察される「機能不全リボソームの選択的分解による品質管理」に着目し、どのような仕組みで数多くのリボソームの中から機能不全の分子だけを見分けることができるのか、細胞がとっている戦略を分子のレベルで理解することを目的に研究を行った。これまでにわれわれの研究から、機能不全リボソームがMms1/Rtt101という2つの因子に依存して選択的にユビキチン化を受けることが明らかになっていたが、本課題では生化学的な方法を用いて機能不全リボソームを精製し、解析するという手段を用いた。具体的には機能不全リボソームの25S rRNA上にMS2結合配列を繰り返し挿入し、MS2コートタンパクと融合したGSTたんぱく質を用いてリボソームをプルダウンするという新しい実験系を開発した。MS2タグ配列を持った25S rRNAの活性中心(PTC)に、機能を失わせるための点変異を導入することで、細胞の中から特定の変異25S rRNAのみを含む機能不全リボソームを回収することに成功した。MS2タグ配列を挿入したことが、リボソームの機能に影響を与えないこと、またこの配列が機能不全リボソームのMms1依存的なユビキチン化を阻害しないこともあわせて確認してある。このようにして得られた機能不全リボソームを詳細に解析することで、いくつかの新しい知見が明らかになった。まず第一に、本研究で扱っているPTCに変異を持つ機能不全リボソームが、A-siteに開始Met tRNAを持つことと、P-siteにさまざまなtRNAを一分子持つことが示唆された。このことは、ユビキチン化の標的になるリボソームは開始コドン上で80Sを形成し、しかも2つのtRNA結合部位の両方にtRNAを含んだ形で停止した分子であろうということを示す。さらに、機能不全リボソームに含まれるたんぱく質の質量分析による解析から、ユビキチン化の標的が明らかになり、機能不全リボソームの特異的認識がどのようになされるかについてのモデルが立てられる段階に研究が進展してきている。
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