単一の受精卵から様々なタイプの細胞を作り出すために、胚は非対称分裂を繰り返す。このとき、二つの娘細胞は異なった発生運命を獲得するが、この非対称性をもたらす機構として、親細胞内で細胞分裂が始まるまでに何らかの因子が偏っており、その因子が二つの娘細胞に不均等に分配されることが重要である。これらの因子はRNAやタンパク質であると考えられ、これらの情報分子の不均等な分配が起こる。本研究では細胞分裂時における非対称性制御プログラムに関して解析を行うことを目的としている。 現在までに、動物胚で中胚葉と内胚葉の運命が分かれる機構について細胞一個一個のレベルでわかっていることは非常に少ない。当研究室では、脊索動物のホヤの胚を用い中内胚葉細胞が分裂する際に、中胚葉になる娘細胞にのみWntシグナル依存的にNot遺伝子のmRNAを分配することで運命を分離していることを明らかにしていた。 そこで、Not mRNAを中内胚葉細胞の将来中胚葉細胞になる領域に局在させる機構を調べた。その結果、(1)細胞の核がNot mRNAをザイゴティックに転写しつつ将来の中胚葉側に移動し、(2)細胞周期のM期にmRNAが核内から中胚葉細胞になる側の細胞質に放出され、(3)染色体と分裂装置がmRNAを残して細胞の中央に戻ることを見出した。そして、この過程で核の移動がmRNAの局在に必要であることを示した。これらの結果は、mRNAの局在化に重要であることを示しており、mRNAの非対称分配をもたらす新たなメカニズムを明らかにすることができた。現在、これらの結果をまとめた論文を投稿中であるとともに、核の移動の極性を決定する機構について候補分子を使ったアプローチにより解析を進めている。
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