転写の場である核と翻訳の場である細胞質とが核膜により物理的に隔てられている真核細胞では、mRNAの核外輸送は遺伝子発現における必須の過程である。近年の研究から、核外輸送は単に遺伝情報をコードしたmRNAをタンパク質翻訳の場である細胞質へ送達させるための機構として重要であるばかりでなく、核内における転写、スプライシングや3'-末端形成などのmRNAプロセシング、細胞質における翻訳などの各過程と機能的にカップリングすることにより、遺伝子発現調節機構やmRNAの品質管理機構の一段階としても重要な役割を果たしていることが明らかにされてきている。出芽酵母においてTREX複合体は、標的となるmRNAや複数のタンパク質因子との機能的・物理的な相互作用を介して、転写伸長や3'-末端形成など、mRNA生合成の複数の過程に関わり、それぞれの素過程を機能的に結びつける役割を果たしていることが明らかにされつつあるが、ヒトを含めた多細胞真核生物では、ごく限られた機能について解析がなされたに過ぎず、複合体構成因子個々の機能の詳細や支配下にある遺伝子についてなど、未解明の問題が数多く残されている。本年度は、実験計画に従い研究を遂行し、100種類以上のヒトTREX複合体の標的遺伝子候補を同定するとともに、免疫沈降法によりいくつかのTREX複合体結合因子を同定した。これらの知見に基づき、今後、標的遺伝子mRNAの発現過程におけるTREX複合体の役割を解析する。
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