RNA転写の場である核とタンパク質翻訳の場である細胞質とが核膜により物理的に隔てられている真核細胞では、mRNAの核外輸送は遺伝子発現における必須の過程である。近年の研究から、核外輸送は、単に遺伝情報をコードしたmRNAをタンパク質翻訳の場である細胞質へ送達させるための機構として重要であるばかりでなく、核内における転写、スプライシングや3'-末端形成などのmRNAプロセシング、細胞質における翻訳などの各過程と機能的にカップリングすることにより、遺伝子発現調節機構やmRNAの品質管理機構の一段階としても重要な役割を果たしていることが明らかにされてきている。本年度は、実験計画に従い研究を遂行し、平成21年度研究において、抗TREX複合体抗体を用いた免疫沈降法により同定したいくつかのTREX複合体結合因子の遺伝子発現における役割の解析を進めた。その結果、ヒトTREX複合体は、標的遺伝子のmRNA転写終結および3'末端形成と核外輸送の過程を共役させ、遺伝子発現の効率を高めるために重要な役割を果たしていることを明らかにした。また、3'末端形成に必須であるmRNA前駆体切断の過程における役割を明らかにしつつある。今後、本申請研究によって新たに同定した種々のTREX複合体標的遺伝子の発現調節機構を解明していくとともに、前駆体切断の過程の分子機構の解明を試みる。さらに、これまでに同定した機能未解明のTREX複合体結合タンパク質因子群についての機能解析にも着手し、TREX複合体を介した遺伝子発現調節機構の全容の解明を試みる。
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