ヒトの遺伝子は高々2万2千個であるが、発達段階・組織特異的に選択的スプライシングを行うことで20万種類以上の蛋白質が機能している。このスプライシングの破綻は、発達段階や多くの疾患病態に関与しており、精神・神経変性疾患等の患者脳内においても、種々の遺伝子のスプライシング異常が知られている。一方近年の脳研究がめざましい進歩を遂げているが、統合失調症研究は未だ萌芽状態にあると言える。当疾患の1%という高い有病率や10%にもおよぶ自殺率等、多岐にわたる精神症状が社会に及ぼす深刻な影響に鑑みれば発症機構解明と有効な治療法開発は焦眉の急である。近年妊娠マウスにインフルエンザウィルスを感染させた後に得られた仔が統合失調症様の行動を呈するという報告がなされ、我々は、このマウスが脳内でのオリゴデンドロサイト(ODC)の分化・発達異常をきたすことも明らかにした。今回我は、統合失調症の病態が多岐にわたることと、グローバルなスプライシング抑制因子hnRNPA1の機能異常に相関性があり、それが髄鞘形成に異常を呈する可能性を検討した。【結果】統合失調症患者リンパ球では、hnRNPA1が有意に上昇していた。この上昇は髄鞘形成に関連するErbB4のExon25と26の相互排他型様選択的スプライシング産物を産生した。hnRNPA1はこのExon25と26の含有パターンを変化させた。さらにこの異常産物は、実際に統合失調症リンパ球内でも確認できた。そこで周辺の配列を研削した結果、Exon24や27周辺にはhnRNPA1認識配列が一つもなかったのに対して、Exon25周辺には15ヵ所も存在することが明らかとなった。
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