個体発生過程にみられる非対称性を伴う細胞分裂・増殖のみならず単細胞モデル生物においても、細胞周期によってRNAレベルの遺伝子発現制御が、様々なRNAの機構を介して厳密に行われていると考えられます。しかし、RNAを介した細胞周期制御の詳細な分子機構はどの生物においても解明されていません。本研究では、分裂酵母において観察される、RNA干渉関連因子の異常に伴う細胞周期の遅延に注目し、異常なRNAの蓄積が引き起こす細胞周期異常の実態の解明を目指すとともに、それを感知して細胞周期の遅延を引き起こすRNAを介した新しい細胞周期チェックポイント機構を明らかにするために研究を行いました。具体的には、RNAを介した遺伝子発現抑制機構であるRNA干渉関連因子である分裂酵母のArgonaute(Ago1)に焦点をあて、DNA損傷による細胞周期チェックポイント活性化機構を調べました。その結果、RNA干渉に関連する因子のうちDicer(Dcr1)とArgonaute(Ago1)の遺伝子破壊によってのみ、ヒドロキシ尿素による細胞周期停止が異常になること、他のRNA干渉関連因子やヘテロクロマチン構造関連因子ではこのような表現型が観られないことが解りました。細胞周期チェックポイント活性化時にAgo1タンパク質に起こる変化を調べるために、Ago1タンパク質を細胞内から精製したところ、細胞周期チェックポイントの誘導によりDcr1非依存的な小分子RNAの蓄積が観察されました。このことは、細胞周期チェックポイントの活性化時にヘテロクロマチン領域で働くRNA干渉の機構とは異なる小分子RNAを介した機構が働いていることを強く示唆するものです。本研究により新たなRNAを介した細胞周期制御機構が存在することを示すことが出来ました。
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