細胞内の小胞輸送に関しては、これまで関与する因子群の同定やその機能の解析は行われてきたが、小胞輸送の量的な制御についてはほとんど解析が行われてこなかった。本研究課題では、細胞の需要に応じて小胞輸送因子の量を厳密に調節する分子メカニズムをヒト細胞や酵母細胞を用いて明らかにし、細胞内ロジスティクスの研究に新機軸を導入することを目指している。本年度は、小胞輸送能力を人工的に阻害した時に転写が誘導される小胞輸送因子の遺伝子のプロモーターを解析したところ、ゴルジ体以降の小胞輸送に関与するWIPI49のプロモーター領域にゴルジ体ストレス応答依存的な転写誘導を制御する転写制御配列GASE様配列が存在し、実際転写誘導を制御していることを見いだした。他の小胞輸送因子のプロモーター上にもGASE様配列が存在することから、小胞輸送因子遺伝子の転写制御は、大部分ゴルジ体ストレス応答によって制御されている可能性が示唆された。次年度は、この可能性を追求し、ゴルジ体ストレス応答による転写制御機構について解析を進めるとともに、GASE様配列が存在しない小胞輸送因子遺伝子(STX3Aなど)の転写制御機構についても解析を進める計画である。これら一連の研究は細胞内小胞輸送の動的な側面を解明するという細胞生物学の根幹に関わる問題の解決に直結するとともに、細胞内ロジスティクスが関与する様々な疾患の病態解明に貢献することを期待している。
|