上皮組織中に癌原性の極性崩壊細胞が生じると、正常な組織はそれら異常細胞を認識して積極的に組織から排除することでその恒常性を維持していると考えられる。申請者はこれまでに、ショウジョウバエをモデル生物として用い、このような細胞間コミュニケーションを介した癌抑制システムが上皮に存在することを見出した。また、この細胞排除システムは、隣接する正常細胞によって細胞非自律的に活性化される極性崩壊細胞のエンドサイトーシス依存的細胞死により実行されることも明らかにしてきた。そこで本研究では、この細胞間ネットワークを介した組織レベルでの「細胞非自律的」なエンドサイトーシス制御機構を明らかにすることで、上皮の内在性癌抑制システムの全容解明に迫る。平成21年度は、ショウジョウバエ上皮を用いた遺伝的モザイク解析により、極性崩壊細胞のみならずそれに隣接する正常細胞側でもエンドサイトーシス経路が亢進していることを見出した。さらに、この正常細胞側のエンドサイトーシス亢進は細胞死を誘導せず、むしろ隣接する極性崩壊細胞の排除に促進的に働いていることが分かった。また、ショウジョウバエ成虫原基の器官培養系を確立し、ライブイメージングによる異常細胞排除現象の可視化システムを構築した。この系を用いた解析により、正常組織によって取り囲まれた極性崩壊細胞は隣接する正常細胞に積極的に貪食されることで組織から排除されることが明らかとなった。
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