1.膵β細胞は刺激に応じてインスリンを分泌すると同時に、インスリン受容体を介してインスリンを受容しPI3Kを活性化している。インスリンによる膵β細胞からのインスリン分泌制御機構を明らかにする目的で、膵β細胞からのインスリン分泌におけるPI3Kの役割について検討を行った。膵β細胞およびMin6細胞をインスリン処理するとグルコース刺激開始から開口放出応答および細胞内Ca^<2+>応答までの潜時がPI3K活性依存的に短縮された。Ca^<2+>透過性チャネルであるTrpV2の細胞膜上における量がインスリン処理によりPI3K活性依存的に増加した。TrpV2阻害剤処理およびRNA干渉(RNAi)によりTrpV2タンパク量を減少させたMIN6細胞ではインスリン処理による開口放出応答潜時の短縮は観察されなかった。以上の結果より、インスリンはPI3K活性を介して細胞膜表面のTrpV2量を増加させることにより、Ca^<2+>応答潜時を短縮し、第1相インスリン開口放出を促進的に制御していることがわかった。 2.CDKAL1遺伝子の変異は第1相インスリン分泌障害を介して、2型糖尿病の一要因を成していると考えられるが、その分子機構は不明である。本研究では、CDKAL1ノックアウト(KO)マウスにおけるインスリン分泌機構を解析した。KOβ細胞では第1相インスリン開口放出の低下が見られ、グルコース刺激に対する細胞内Ca^<2+>上昇の遅延、K_<ATP>チャネルの応答性の低下、ATP生成の低下が観察された。一方、KO細胞におけるCDK5活性は、野生型細胞との間で違いは認められなかった。以上の結果より、CDKAL1はCDK5以外の経路を介して、ATP生成、K_<ATP>チャネルの応答性、細胞内Ca^<2+>上昇を促進することにより、第1相インスリン分泌をコントロールしていることが明らかとなった。
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