研究概要 |
膜貫通型受容体や細胞接着分子などの膜タンパク質は、複雑かつ多様なメンブレントラフィック経路のいずれかを選択して適切に輸送されるが、このような細胞内物流システムの個体レベルでの役割についてはほとんど分かっていない。これまでに我々は、簡便に個体への遺伝子導入を行える「子宮内エレクトロポレーション法」を確立し、この手法などを用いることにより、大脳皮質形成過程の神経細胞移動における細胞骨格系の動態制御の重要性を報告してきた。これに対し、神経細胞移動の異常による脳疾患であるPVH(脳室周囲異所性灰白質)病の原因遺伝子のひとつとして小胞輸送関連遺伝子(ArfGEF2)が近年同定され、神経細胞移動における細胞内物流システムの重要性が示唆されたが、その役割については不明であった。子宮内エレクトロポレーション法を用いた昨年度までの研究により、Rab5依存性のエンドサイトーシスおよびRab11依存性のリサイクリング経路が神経細胞移動に必要であることを明らかにした。本年度の研究では、Rab5およびRab11依存性のメンブレントラフィック経路によって輸送される分子のひとつとして、細胞接着分子N-カドヘリンを同定した。さらに、N-カドヘリンの機能抑制により、神経細胞移動が阻害されたことから、発生期大脳皮質の神経細胞はN-カドヘリン依存的に移動していることが分かった。これらより、細胞内物流システムの協調作用によるN-カドヘリンの輸送が、大脳皮質形成において重要な役割を果たすことが示された(Neuron,2010)。
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