昨年度、開発したヒストンテイルを導入した人工遺伝子制御剤でアセチル化の前後で粒径などの見かけの物性は変化しないことを確認した。アセチル化前後で実際に転写は活性化しており、遺伝子の転写には、DNA鎖が完全に解放される必要が無いことを実証した。さらに、DNA鎖の運動性を定量的に評価するために、高分子鎖の運動性を評価するための蛍光寿命測定法を検討した。レーザー波長の制約を満足するインターカレーター、グルーブバインダー等の蛍光色素を結合して、制御剤としてはSrc応答型の高分子-ペプチドコンジュゲートを用いて、フリーのDNA、制御剤との複合体形成時、リン酸化後での蛍光寿命を計測したが、蛍光量が足りなかったため、溶液でも検討したが正確な計測はできなかった。そこで、次に蛍光偏光解消を指標とする計測法を試みたところ、実際にフリーのDNAに対し、複合体形成後で顕著な偏光解消の抑制が見られ、DNA鎖の運動性を評価可能であることが分かり、定量解析の手法を確立することに成功した。また、DNA鎖の運動性を抑制することが転写抑制につながることを実証する別の手段として、ペプチド以外に高分子主鎖にもカチオン荷電を有する分子設計を行ったところ、粒径などの物性は主鎖が中性の場合とほとんど変わらないにもかかわらず、大きな遺伝子転写の抑制を実現した。この場合、リン酸化に伴う遺伝子の発現差は数百倍に達し、本概念が正しいことを証明できた。
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