細胞核はゲノムの微小環境を形成、変換することにより遺伝子発現を制御する、高次エピジェネティクスメカニズムのひとつである。本研究は、細胞核内構造の形態、機能と形成メカニズムを解明することにより、遺伝子の発現制御における細胞核の意義を理解することを目的としている。 (テーマ1) 核内構造体の形成機構と機能の解明 部分的siRNAスクリーニングによりRan-RanBP2の核-細胞質輸送システムが、核スペックル構成因子であるSRタンパク質群のG1期における核内斑状様の分布に関わることを見出した。また、この過程がSRタンパク質の細胞周期に特異的なリン酸化の制御下にあることを見出した。さらに、スプライシング因子であるSRタンパク質の正常な核内分布が、選択的スプライシングに重要であることを明らかにした。核内構造体の構築、さらには遺伝子の発現が核-細胞質輸送システムにより制御される、新たな概念を創出した。 (テーマ2) 遺伝子の核内における空間配置機構の解明 乳癌の発生・増殖に女性ホルモンのエストロゲンおよびエストロゲン受容体が重要な働きをしている。乳癌組織においてエストロゲン受容体遺伝子(ESR1)が遺伝子増幅様の特殊な形態を示す場合がある。本研究では乳癌由来細胞を用いて、3次元DNA/RNA蛍光in situハイブリダイゼーション(3D-FISH)により、ESR1遺伝子の構築の変動と細胞核内における局在の相関関係の解明を行った。 (テーマ3) 核構造形態変化の定量・計測およびイメージインフォーマティクスの確立 細胞イメージのハイコンテント解析装置を用いて、細胞核内構造体および染色体の形態を定量化解析を行い、核スペックル、核膜、カハールボデイーを自動認識、定量するためのプログラムソフトウエアを確立し、組織、細胞画像に適用した。
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