真核生物のDNAはクロマチン構造を取っている。クロマチンは、ヒストンタンパク質とそれに巻きついたDNAから構成されたヌクレオソームの繰り返し構造である。DNAはヒストンに巻きついているため、転写や遺伝子制御に関わる結合タンパク質はDNAへの結合を阻害される。しかし、ゲノム中でヌクレオソームはその位置を変えていること、位置を変えさせるタンパク質(一般にリモデラーと呼ばれている)が存在していることが生化学実験により次々と明らかにされてきた。そこで、構造的に最も基本的な系であるヌクレオソーム単体において、DNAをピストンから引きはがす計算機実験を通して、ポジショニング変化機構を明らかにするのが本研究の目的である。 リモデラーの原子座標は、未だ決定されていない。そこで、リモデラーの役割を仮想的な外力として取り込むことを行った。そのため、DNAやピストン分子の任意の部位に対して、反応座標に応じてさまざまな方向に外力を加えることができるように分子動力学計算プログラムAMBERを改変することを行った。次に、反応座標の取り方や外力の加え方などの計算条件を検討した。この条件設定が難しく、外力の加え方によってヌクレオソーム構造が大きく崩れてしまうことがあった。最終的にDNAを緩ませた状態を用意し、その状態へゆっくりと構造変化をさせた後外力を加えるというプロセスにより、安定な計算、つまり、精度の高い計算が行えることがわかった。このDNAを緩ませるというプロセスは、生化学的な知見にもとついて提唱されているポジショニング移動モデルとも矛盾しない。 今後、作成したプログラムを使って、ヌクレオソームが位置を変えるために必要なエネルギーコスート、ヒストンバリアントでそのコストがどのように変化するか、詳細に調べていく。
|