研究概要 |
分裂期染色体は、細胞が間期から分裂期に入る際、そのゲノムDNAが凝縮することによって現れる構造体である。ゲノムDNAがピストンに巻かれたヌクレオソーム構造は、折り畳まれて30nmクロマチン繊維になり、さらに階層状に折り畳まれて分裂期染色体を作るとされてきた。しかし私たちは、クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析から、分裂期染色体には30nmクロマチン繊維のような規則的な階層構造は存在せず、ヌクレオソームが不規則に折り畳まれてできていることを見出した(Maeshima et al.., Current Ophlion in CelBiology, in press)。それでは、生きた細胞の分裂期染色体内部は一体どのような環境なのだろうか?従来の光学・電子顕微鏡観察では、生細胞の染色体内部の状態を調べることは非常に困難であったが、私たちは蛍光相関分光法(FCS)を利用して、生細胞の染色体の環境を調べることにした。FCSは細胞内の微小な観察領域(oonfocal volume)の蛍光分子の動きを.蛍光強度のゆらぎによって検出する方法である。これにより、染色体内部の環境を間接的に知ることが可能である。しかし、現在の顕微鏡技術ではconfocal volumeはヒトの染色体の直径よりもはるかに大きいことが問題であった。そこで私たちは巨大染色体を持つシカIndian Muntjac細胞(DM細胞)を利用することにした。実際には、FCSを測定するEGFP分子と、染色体の位置と測定領域を確認するためのピストン-mRFPを同時に発現するDM細胞の安定発現株を樹立し、測定に用いた。そして間期核、細胞質、分裂期染色体内部のEGFP分子の拡散定数を解析し、それぞれの環境を比較した。その結果、驚いたことに、高度に凝縮している分裂期染色体内でも、EGFPの拡散定数は、間期核内と比べて大きな差はみられなかった。この結果から、私たちは染色体が非常にコンパクトではあるが、動的な環境であると考えている。
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