研究概要 |
本研究の目的は、時期特異的・細胞種特異的なウイルス発現系の確立を通して、鳴禽類ソングバードを音声発声学習研究の動物モデルとして利用していくことにある。ソングバードの発声学習・生成行動は、特異的な神経回路Song system(ソングシステム)がすでに同定されている点において脊椎動物の中でユニークな神経回路といえる。さらにこのSong systemは、発声運動制御系と発声学習制御系の2つの神経回路に分別することができ、動物の行動発現(発声学習・生成行動)を「運動と学習」の2つの回路機能に分解して検証することが可能である。 これまでに音声発声学習では「声を出す」という自発的行動が、脳内分子レベルにおいても重要な意味をもつと考え、ソングバードの音声発声学習過程において[発声行動依存性]+[神経回路特異性]+[学習臨界期間限定性]を兼ね備えた多段階発現制御を受ける遺伝子群が存在することを明らかにしてきた。これらを踏まえ、当該年度においては、高タイターをもつRV-G(+)lentivirusの作成を続けると同時に、これまでに発声行動によって脳内で発現誘導される3つの遺伝子Arc,Gadd45b,H3.3Bを強制発現、及びRNAiによるdown regulationを可能とするlentivirus plasmidの構築を終え、現在ウイルスを作成中である。 また、細胞種特異的発現を可能とするプロモーター発現調節部位の同定及びそのレンチウイルス発現系への応用を目指し、神経活動依存的でかつ、ソングシステムに限定的に発現誘導される遺伝子(Dusp1)が存在することを明らかにした。その過程で得られた結果の一部を論文(Horita et.Al., J.Comp.Neurol.518,2873-2901(2010))として報告した。現在、さらにminimum regulatory regionを同定する実験を準備でしている。
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