研究概要 |
ミツバチは高い視覚情報処理能力をもち、その働き蜂は巣から餌場までの距離と方向を8字ダンスにより仲間に伝達する。申請者等はミツバチ脳の"分子的解剖"を遂行し、脳の高次中枢(キノコ体)の中で、採餌飛行時の情報処理に関わると考えられる新しい"モジュール構造"に特異的に発現する遺伝子Clone #3を発見した。さらに、視覚中枢(視葉)で、明暗や物体の動きの感知に働くと考えられる"単極細胞"に選択的に発現する2つの遺伝子を発見した。本研究は、これらの既知、或いは未知のミツバチ脳の"モジュール構造"が視覚情報処理において果たす機能の解析を目的とした。 今年度は、先の単極細胞選択的に発現する遺伝子と、視葉の腹側の頭部に水平なゾーンを形成する領域に選択的に発現する遺伝子に関して論文発表した(Kakeno et al., 2010)。さらに、働き蜂で頭部選択的に発現する2種のmiRNAを同定し、その内1種が脳領野選択的に発現することから、脳領野選択的遺伝子発現の制御に関わる可能性を示した(Hori et al., 2011)。また、ミツバチではエクダイソン情報伝達系遺伝子がキノコ体選択的に発現することを示しているが、今年度はエクダイソン合成酵素群の遺伝子発現解析と組織培養を用いたエクダイソン合成検定から、働き蜂では卵巣に加えて脳でもエクダイソンが合成されている可能性を示唆し、脳で合成されたエクダイソンが'ニューロステロイド'として脳機能調節に働く可能性を提示した(Yamazaki et al., 2011)。さらに、採餌飛行蜂の脳で活動する神経細胞を初期応答遺伝子で検出したところ、GABA陽性(抑制性)と陰性(興奮性)の両者の神経細胞が活動していることが判明し、揉餌飛行時の脳では複雑な視覚情報処理がなわれることを示唆した(Kiya et al., 2010)。
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